「特定行為研修」という言葉を、看護師の求人や病院の研修制度などで目にする機会が増えてきました。けれど、いざ「これは何ですか?」と聞かれると、うまく説明できない —— そんな方も多いのではないでしょうか。
- 特定行為研修って、何を学ぶもの?
- 「資格」とは違うの?
- 修了すると、看護師にできることはどう変わるの?
- なぜいま、訪問看護の現場で注目されているの?
この記事では、そうした疑問に、制度のしくみから研修の中身、費用の実際まで、できるだけやさしくお答えします。
特定行為研修とは?
特定行為研修は、2015年10月1日に始まった国の制度です(保健師助産師看護師法 第37条の2にもとづきます)。
通常、医療行為は医師が行います。しかし特定行為研修では、医師があらかじめ「手順書」という形で治療方針や対応の手順を定めておくことで、その範囲内で、研修を修了した看護師が必要な処置を実施できるようになります。
大切なのは、これは 「看護師が医師の代わりをする」制度ではない ということです。医師と看護師がそれぞれの専門性を活かしながら連携し、より適切なタイミングで医療を届けるための——いわばチーム医療を前に進めるためのしくみです。
「手順書」とは?
手順書とは、医師(歯科医師)があらかじめ作成する、いわば 「この状態のときは、この対応をしてよい」という取り決め書 です。次のような内容が定められます。
- 看護師が対応してよい患者さんの病状の範囲
- どの診療の補助(特定行為)を行うか
- 実施にあたっての医師との連絡体制
- 特定行為を行った後の医師への報告事項
つまり看護師は、その都度、医師の個別の指示を待たなくても、手順書で定められた範囲のなかで判断し、動くことができます。範囲を超える場合や迷う場合は、これまでどおり医師に確認します。
「特定行為」とは、どんなこと?
特定行為とは、看護師が診療の補助を行うにあたって、とくに高い知識・技能と、その場での判断力が必要とされる医療行為のことです。制度上は21区分・38行為が定められています。
たとえば、次のようなものがあります。
- 褥瘡(じょくそう)や慢性創傷の壊死組織の除去(創傷管理関連)
- 胃ろう・腸ろう、膀胱ろうのカテーテル交換(ろう孔管理関連)
- 脱水がみられるときの点滴(輸液)による補正(栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連)
- 気管カニューレの交換(呼吸器関連)
- インスリンの投与量の調整(血糖コントロールに係る薬剤投与関連)
いずれも、患者さんの状態を正しく観察し、「いま、どの対応が必要か」を判断する力が求められる行為です。だからこそ、専門的な研修が必要になります。
なお、特定行為研修を修了しても、医師の役割そのものである「薬の処方」や「死亡の診断」などは、看護師には行えません。あくまで、手順書で定められた診療の補助の範囲での実施です。
なぜ、特定行為研修が始まったのか
制度が生まれた背景には、日本の医療を取り巻く環境の変化があります。
2025年、そして2040年に向けて、高齢化がさらに進み、自宅で療養する人が増えていくと見込まれています。一方で、医師の数には限りがあります。すべての場面に医師がすぐ立ち会える体制を、地域全体で維持し続けるのは簡単ではありません。
そこで、医師の判断を都度待たなくても、手順書にもとづいて一定の診療の補助を行える看護師を育てることで、必要な医療を、必要なタイミングで届けられるようにしよう。特定行為研修は、こうした地域医療・在宅医療の課題に応えるために設けられた制度です。
なぜ、訪問看護の現場で注目されているのか
訪問看護の現場は、病院とは環境が大きく異なります。利用者さんのご自宅には、医師や他の医療スタッフが常にそばにいるわけではありません。
利用者さんの体調が変化したとき、まず最初に状態を確認するのは、多くの場合、訪問看護師です。だからこそ、訪問看護師には次のような力が求められます。
- 利用者さんの小さな変化に気づく観察力
- 状態を正しく捉えるアセスメント・判断力
- 医師や多職種と、根拠を持って連携する力
特定行為研修を修了した看護師は、医師が作成した手順書にもとづいて、必要な処置をその場で、迅速に行えるようになります。在宅では、「変化に気づいてから、医師に報告し、指示を受けて対応する」までにどうしても時間差(タイムラグ)が生じますが、その時間を短縮できることは、状態の悪化を防ぐうえで大きな意味を持ちます。
こうした働きは、診療報酬(医療サービスの公的な評価)のうえでも評価されつつあります。たとえば、修了者が計画的な管理を行った場合に、訪問看護管理療養費へ加算が設けられるなど、その専門性が制度的にも位置づけられています。
診療報酬の項目・金額は改定で変わります。最新の要件・金額は公開前に確認してください。
研修のしくみ(対象・内容・費用)
「では、実際に受けるには?」
研修の全体像を、要点だけ表にまとめました。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 受講資格 | 看護師免許があれば受講できる(国は実務3〜5年以上を想定しているが、経験年数は絶対条件ではない) |
| 研修の構成 | すべての人が学ぶ共通科目(250時間) + 選択して学ぶ区分別科目(各区分5〜34時間) |
| 実習 | 各行為につき5〜10症例の臨地実習。一部の行為はOSCE(客観的臨床能力試験)の合格が必要 |
| 学び方 | 共通科目の講義・演習はeラーニングが可能。働きながら受講できる設計 |
| 期間の目安 | おおむね6ヶ月〜2年(選ぶ区分やペースにより変わる) |
| 費用の目安 | 30万〜250万円程度(研修機関・受講区分により幅がある) |
| 費用の支援 | 教育訓練給付制度/人材開発支援助成金/都道府県の補助事業 など |
| 修了者数 | 全国で6,875名(2023年時点。年々増加している) |
共通科目では、臨床推論・フィジカルアセスメント・臨床薬理学など、「なぜその対応が必要か」を根拠を持って考えるための土台を学び直します。特定行為という「手技」そのものだけでなく、その手前にある判断力を鍛えることが、研修の中心にあります。
費用については幅がありますが、いくつかの支援制度があります。
| 教育訓練給付制度(厚生労働省) | 雇用保険の要件を満たす場合、受講費用の一部が支給されます(指定講座が対象)。 |
| 人材開発支援助成金(厚生労働省) | 事業主が計画的に研修を実施した場合、訓練費用や賃金の一部が助成されます。 |
| 都道府県の事業(地域医療介護総合確保基金 など) | 受講料や、研修中の代替職員の人件費などを補助する制度があります。内容は都道府県・年度によって異なります。 |
利用者さん・ご家族にとっての意味
特定行為研修の恩恵を受けるのは、看護師や事業所だけではありません。利用者さんやご家族にとってのメリットこそ、この制度の出発点です。
- 必要な医療を、通い慣れた自宅で受けやすくなる
- 状態が変化したときに、早く対応してもらえる安心感がある
- 通院の負担が軽くなる場合がある(たとえば、これまで病院での処置が必要だったカテーテル交換などを、訪問時に対応できるケースがあります)
- 住み慣れた自宅での生活を、続けやすくなる
訪問看護は、「病気を診る」だけの仕事ではありません。その人らしい暮らしを、まるごと支える医療です。特定行為研修は、その質をもう一段高めるための学びの一つといえます。
まとめ
特定行為研修は、「看護師の仕事を増やすための制度」ではありません。
医師と看護師がそれぞれの専門性を活かして連携し、利用者さんが安心して在宅療養を続けられるように支えるための制度です。
【要点】
- 2015年に始まった国の制度で、手順書にもとづいて一定の診療の補助を行えるようにするもの
- 対象は21区分・38行為。処方や死亡診断はこれまでどおり医師の役割
- 共通科目250時間を中心に、働きながらでも学べる設計。費用には支援制度もある
- 在宅では「タイムラグの短縮」という形で、利用者さんの安心に直結する
高齢化が進み、在宅医療の重要性が増すこれから、特定行為研修を修了した看護師の役割は、さらに大きくなっていくと考えられます。制度を知ることは、これからの看護と訪問看護の未来を考える第一歩でもあります。
ひばりが特定行為研修に取り組む理由
ひばりでは、特定行為研修を「看護師ができることを増やすため」だけのものとは捉えていません。利用者さんの小さな変化に気づき、医師や多職種と連携しながら、適切なタイミングで支援につなげる —— その現場の判断力・対応力を高め、利用者さんが住み慣れた場所で安心して暮らし続けられる体制をつくるための、学びの一つと考えています。
これは、私たちが第12期の経営方針に掲げる「学び続けられる訪問看護ステーション」という考え方とも、一本の線でつながっています。専門性を高めることは、そのまま地域の安心を支えることにつながる —— そう信じて、これからも一人ひとりの人生によりそう支援を、大切にしていきます。
次回予告
次回はふたたび及川さんご本人へ。数ある研修機関をどう選び、どんな手続きを経て受講にたどり着いたのか、その実際のプロセスを伺います。近日公開予定です。
バックナンバー
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コラム
そもそも特定行為研修とは? | 制度のしくみと、訪問看護で注目される理由をわかりやすく解説
「特定行為研修」という言葉を、看護師の求人や病院の研修制度などで目にする機会が増えてきました。けれど、いざ「これは何ですか?」と聞かれると、うまく説明できない —— そんな方も多いのではないでしょうか […] -
人を知る
なぜ、いま特定行為研修を受けるのか | ひばりの看護師が語る、受講の理由
利用者さんだけでなく、スタッフやチーム全体を見てきた及川さん。その経験があるからこそ、訪問看護の現場には、利用者さんの状態変化を見極め、根拠を持って判断し、多職種と連携する力が必要だと感じています。 特定行為研修は、及川 […] -
ニュース
在宅の現場で専門性を深める | ひばりの看護師が『特定行為研修』を受講します
訪問看護の現場で、看護師がその場で考え、動ける範囲をもう一段広げていく。そのための一歩として、ひばり仙台ステーションの看護師の一人が、このたび特定行為研修の受講を開始します。 私たちはこの取り組みを、一人の看護師の個人的 […]
