利用者さんだけでなく、スタッフやチーム全体を見てきた及川さん。
その経験があるからこそ、訪問看護の現場には、利用者さんの状態変化を見極め、根拠を持って判断し、多職種と連携する力が必要だと感じています。
特定行為研修は、及川さん個人のスキルアップにとどまらず、ひばり訪問看護として、地域でより専門性の高い在宅支援を行う体制づくりの一歩でもあります。
第1回でお伝えした研修受講の、その「なぜ」を —— ここからは、及川さんご本人の言葉でお届けします。

手術室から、精神科16年、そして訪問看護へ
及川さんの看護師としてのキャリアは、外科病院の手術室から始まりました。
最初に勤務した外科の病院で、手術室に配属されました。その後、精神科の病院に移って16年間勤務して、というところでしたね。こちらが3つ目の職場です。訪問看護としては初めてです
それぞれの現場で得たものを、及川さんはこう振り返ります。
手術室では、命に直結する場面に関わる中で、生命の尊さとか、我々医療者としての責任の重さというのを肌で感じることができました。精神科では、言葉だけでなくて、表情とか行動とか、そういったもので生活背景を含めて観察すること、信頼関係を築くためのコミュニケーションっていうのが大切なんだろうなって学びました
訪問看護に関心を持ったきっかけも、精神科での日々のなかにありました。
精神科で勤務していた時に、入院を拒否される方とか、退院を希望される方ってすごく多くて。入院が必要になる前に、在宅で何かできる支援があるんじゃないかなって。例えば、服薬をきちんとするとか、生活のリズムを整えるとか、そういったところに関わることによって、入院する機会を減らすことができるんじゃないかなって思ったのがきっかけですね
病棟のなかだけでは見えない暮らしの全体に関わりたい —— その思いが、及川さんを在宅の現場へと向かわせました。
スタッフを支えるなかで、大切にしてきたこと
ひばりでは、管理的な立場でステーション運営に携わってきました。そのなかで大切にしてきたのは、スタッフが安心して相談できる環境づくりだったといいます。
自分自身も新人だった時の気持ちっていうのは忘れないようにしていて。不安だったり、技術とかわからないことってたくさんあったんですけど、その時の聞く勇気だったりとか、学べた瞬間の嬉しさとか……。私自身も先輩方に支えていただきながら来れたので、初心の気持ちを持ち続けて、みんなが安心して相談できる関わりができればなって思っています
やりがいを感じるのは、スタッフ一人ひとりの誠実な関わりが、外からの信頼として返ってくる瞬間だと話します。
訪問看護って、一人で訪問しているように見えて、実際はチームで、全体で支えている仕事なんです。一人一人が利用者様のことを考えながら、誠実に関わっている姿が、地域からの信頼につながっていると感じた時に、とても誇らしく思います
一方で、管理の立場ならではの難しさも、率直に語ってくれました。
現場の思いと組織の思い、両方を大事にしないといけない。スタッフの気持ちに寄り添いたいなって思う一方で、利用者様への支援の質とか、チーム全体のバランスも考えないといけないし、時にはやっぱり、言いたくないことも伝えなければならないというところもあったりして。一人一人が利用者様のもとで判断する場面も多いので、一人で抱え込まないようにすることが難しかったというのもあります
スタッフを支える立場になったことで、現場を見る視点も変わったといいます。
以前は、自分が担当する利用者様への看護とか、その場の判断に意識が向いていたんですけど。管理者になると、スタッフの方がどのような思いで現場に向かっているのか、どこに不安とか負担を感じているのかっていうのも、目を向けて考えなきゃいけないなと。利用者様を支えるためには、スタッフ自身が安心して働いているということも大事だなと思っています
訪問看護の現場に、必要だと感じる力
利用者さんとスタッフ、その両方を見てきた及川さんが、いま現場に必要だと感じている力があります。
在宅の現場って、やっぱり利用者様の状態変化にいち早く気づかなくてはいけないし、必要な対応につなげる力がとても重要だと感じていて
具体的には、こんな力だといいます。
- 観察力
- アセスメント力
- 多職種と連携して判断する力
- 医療的な知識と技術
- 利用者さんやご家族の不安を受け止め、安心につなげるコミュニケーション
一人一人が自信を持って判断して、相談できる、そんな体制を作っていければいいかなと思っているところでした
特定行為研修を受ける背景には、こうした訪問看護に必要な力を、もう一段深めていきたいという思いがあります。
なぜ、いま、特定行為研修なのか
今回の研修を、及川さんは自分一人のためのものとは捉えていません。
自分自身のスキルアップというのはもちろんなんですけど、ひばり訪問看護ステーションが地域の中で担う役割とか存在意義を、より明確にしていくための貴重な機会だと受け止めています
特定行為研修を修了すると、あらかじめ医師と取り決めた「手順書」の範囲内で、医師の個別の指示をその都度待つことなく、定められた医療行為(特定行為)を実施できるようになります。
あらかじめ手順書というのを作成するんですけど、その手順書を作っておけば、その範囲の中であれば、こちらとしてやれることができるということです
(※ 特定行為研修の制度的な仕組みについては、連載・第3回であらためて詳しくお伝えします。)
受講を決めた一番の理由は、利用者さんの「安心」に直結すると考えたからでした。
やっぱり一番大きかったのは、利用者様にとって、より質の高いサービスを提供できる一助になると考えたっていうところですね。在宅で生活する利用者様にとっては、状態変化に早く気づいて必要な対応につなげられることが、大きな安心につながると思いますので
不安から始まった、挑戦
もっとも、最初から前向きだったわけではありません。話を聞いたときの正直な気持ちを、及川さんはこう振り返ります。
率直に、最初はプレッシャーが大きかったですね。自分にできるのかなとか、研修についていけるかなという不安もありましたし、責任の重さというのも感じました。ただ、そのプレッシャーは、期待していただいているからこそだとも思いましたので、少しずつ前向きに受け止めるようにはなりました
研修そのものの大変さも、隠さずに話してくれました。
研修自体は決して簡単ではなくて、大変なことも多いですね。ただ、その分、学びが現場につながった時の、やりがいとか、自分自身の成長を感じられる機会でもあると思います
特定行為が「できること」以上に、大切なこと
及川さんが見据えているのは、特定行為という技術そのものよりも、その手前にある「考える力」です。
特定行為そのものができるようになるということはもちろん大事なんですけども、それ以上に、なぜその対応が必要なのか、今何を優先すべきなのかっていうのを考えられる力を深めることに、大きな意味があるというふうに思っていて
その力は、利用者さんを守ることにも、チームの連携にもつながると考えています。
判断力とか観察力が高まることで、利用者様の小さな変化に早く気づいて、重症化を防ぐことにもつながると。医師や多職種へ報告・相談する際にも、より根拠を持って伝えられるようになると思いますので、スムーズな連携にもつながっていけるんじゃないかなと
在宅ならではの「時間差」も、及川さんが向き合っているテーマです。
在宅では、状態の変化に気づいてから、医師に報告して、指示を受けて対応につなげるまでが、どうしてもタイムラグが生じます。病院とは違って、その時間を少しでも短縮できれば、利用者様の状態悪化を防ぐことにつながってくると思います
ただし、それは看護師一人で完結するものではない、とも。
特定行為を行うことで、医師の負担軽減につながる場合もあると思います。ただ、看護師だけで完結するというのはもちろんなくて、医師や多職種との連携があってこそ、より良い支援につながると考えています
今回の研修を通して深めたい力を尋ねると、こんな答えが返ってきました。
アセスメント力と判断力を深めていきたいと思っていて。利用者様の状態を多角的に捉えて、今起きていることだけじゃなくて、先を見据えて捉えられるようにしていきたいですね
利用者さんとご家族へ、ステーション全体へ、そして後輩へ
学びの先に及川さんが届けたいのは、医療的な対応にとどまらない「安心」です。
『ひばりにお願いしてよかった』とか、『ひばりが関わってくれているから安心できる』って思っていただいて、安心を届けたいなと考えていて。不安な時に相談できたりとか、状態が変わった時にも早く気づいてもらえる、そう感じていただける存在であればなと思っております
その視線は、自分一人の成長を超えて、ステーション全体へと広がっています。
今回の学びが、ひばり訪問看護ステーション全体の専門性を高めるきっかけになればいいかなと。この特定行為に限らず、様々な分野に興味を持つスタッフが挑戦して、それぞれの専門性を深めていく。エキスパートを育成して輩出できる体制につながっていく。それが理想的だなという気持ちになっていて。その積み重ねが、安心して任せていただけるステーション作りにつながっていくんじゃないかなと思います
そして、これから続く後輩たちへ。自分が挑戦する姿そのものが、誰かの一歩につながればと願っています。
興味があっても、やっぱりわからないことが多いのかなと思って。自分にもできるかなとか、どう進めていったらいいかなって悩んでる方もいると思います。実際に経験した人が身近にいるっていうことは、少しでもハードルが下がると思いますし、挑戦する姿を見せることで、スタッフや後輩の前向きな一歩につながればなと感じていました
最後に、この挑戦を通していちばん大切にしていることを聞きました。
一番大切にしているのは、目的を忘れないということでした。研修を受けること、資格を取ること自体が目的ではなくて、その学びをステーションに還元して、結果として、利用者様やご家族様の安心につなげることが本来の目的ではないかなと思っていました。ひばりのステーションが、より安心して任せていただけるステーションになるために、自分が学んだことを現場に活かして、利用者様へ還元していきたいと考えております
やっぱり一歩踏み出すことで、見える景色が変わるということもあると思います
及川さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。その一歩がこれから何を変えていくのか —— 歩みを、本連載で引き続きお届けします。
一歩一歩、景色が見えてくる
次回予告
第3回:「そもそも特定行為研修とは?──制度のしくみと、訪問看護にとっての意味」
今回、及川さんの言葉にも出てきた「手順書」。次回は、特定行為研修という制度そのものを、できるだけやさしく解説します。近日公開予定です。
ひばりで、あなたの「一歩」を
ひばり訪問看護ステーションでは、及川さんのように「学びたい」「深めたい」という挑戦を、チーム全体で支え合う環境があります。安心して相談でき、学びが実践につながる現場で、一緒に働きませんか。

経験や資格の有無よりも、利用者さんと向き合う気持ちを大切にする仲間を募集しています。「まずは話を聞いてみたい」だけでも大歓迎です。
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